誰かの夢を見る時間:The Homesick Moon @林崎松江海岸 (兵庫)

 

ふわふわした余韻、ここでしか出会えなかった人たちと共有した時間のかけら。

 

The Homesick Moon:一色暁生建築設計事務所 × ジュリ・ベイカーアンドサマー

 

穏やかな瀬戸内海を一望できる林崎松江海岸で、3日間だけのコラボレーション展 "The Homesick Moon"が開催されました。

 

お越しいただいた方々の記憶と余韻。

The Homesick Moon:一色暁生建築設計事務所 × ジュリ・ベイカーアンドサマー

それぞれに「夢」という言葉が出てきたのが印象的。(掲載への快諾、ありがとうございます)

 

普段は静けさに包まれたこの場所に、日本各地、さらにはイタリア、ニュージーランド、アイルランド、イスラエルやタイなど…さまざまな場所をルーツにもつ、計140名を超える来場がありました。

 

詳細

The Homesick Moon:一色暁生建築設計事務所 × ジュリ・ベイカーアンドサマー


築約50年の家をリノベーションした、海辺の一軒家を拠点に活動する一色暁生建築設計事務所。瀬戸内海を一望する開放的な窓が特徴的なこの場所は、自宅 兼 事務所でありながらカフェスペースもあり、それぞれにはっきりとした境界線はない。

南国・タイからビジュアルアーティスト juli baker and summer(ジュリ・ベイカー&サマー)を招き、空間に合わせたアート作品を本展のために特別制作。バンコク育ちの彼女が想う "故郷 (Home)" を光を放つランタンとして表現。

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本展は、兵庫県を代表する老舗媒体の神戸新聞や、世界333都市59カ国で展開するTime Outの関西版など、幅広いメディアに掲載されました。

 

The Homesick Moon:juli baker and summer x Time Out

 

The Homesick Moon:一色暁生建築設計事務所 × ジュリ・ベイカーアンドサマー

・神戸新聞:1898年創刊以来、125年の歴史を持つ老舗新聞。地方紙の中でも群を抜く発行部数が特徴。(記事

・Time Out:1968年にロンドンで創刊されたシティガイド。地域密着型でありながらグローバルに広がるネットワークが特徴。(記事

・Deeper Japan:海外富裕層向けトラベルメディア / エージェンシー。"Art as a Catalyst: Rethinking Regional Revitalization in Japan" ー 地域を動かすアートの力:日本における地域活性化の新たな視点特集記事

 

 

 

   誰かの夢を見る時間:"The Homesick Moon" 目次

 

 

 

きっかけ

「実現した場面を想像したら、ワクワクしたから」という一言に尽きるのですが

ふと思いついたアイディアがきっかけでした。

 

ずっと忘れられなかった景色と、大好きな人が出会ったら?

 

建築とアート、地域と海外。

普段は超えない境界線をひょいっと超えて、一緒に何かを作ってみたら、どんな景色が生まれるのだろう?

 

日本の地域では、一時的なビジターとして海外からの旅行客が訪れることはあっても、地域のローカルと一緒になって何かを協業する…という場面はまだまだ少ないように思います。特に、公官庁や大手企業が関わっていない場合。

 

前回の 記事 で触れたように、日本全体で過疎化が進み、地域にとどまることを諦める人が増えている現在、足りないのはその地域から生まれる「夢や希望」のような気がするのです。

 

あれがない、これがない、だからできない。

つい、そうなりがちな空気を「アイディア」で少し変えられないだろうか?

そして新たに生まれた景色を見た他の誰かにも、新しい夢がうまれたら。(それが間接的に、どこかの地域の活性化につながるのかもしれない)

 

そんなところから、瀬戸内海を眺める大きな窓を持つ一色暁生建築設計事務所とタイ在住のアーティストjuli baker and summerのコラボレーションを企画しました。

 

📍林崎松江海岸

 


 

開催に至るまで

"The Homesick Moon" が開催されたゴールデンウィークは、大阪万博、3年に一度の瀬戸内国際芸術祭、KYOTO GRAPHIE 京都国際写真祭など、注目を集める大型イベントが関西一帯で数多く開催されていて、ロケーションとしては少し離れた林崎松江海岸まで足を運んでくださる方々がどれだけいるのか?開催当日を迎えるまで、本当にハラハラすることが多かったのです。

 

直前までの準備はほとんどリモートで。タイと明石、そして湘南(時々都内)の3カ所から、準備を進めました。コンセプト作り、フライヤーデザイン、展示空間のイメージや何を準備するかなど…デジタルツールを駆使してみんなの考えをシェアしました。

 

海外と地域、そして関東にそれぞれの時間の流れがあり、リモートでは自ら発信するメッセージが頼り。3者それぞれの事情や流れを、直接姿の見えないオンラインメッセージだけで汲み取るのは少し苦労した場面もあります。

 

国境や地域を超えて、物理的にみんなが顔を合わせたのは、展示開催の少し前のことです。

 

蓋を開けてみれば、たった3日間で140名を超える方々にお越しいただいたり、国内外のメディアに掲載していただいたりと、嬉しい結末を迎えられたのですが、企画した当初はなんの保証もなく。道なき道を開拓するような、ゴールに辿り着くまで先が見えない感覚はいつもどこかにありました。

 

なんとか笑顔で終われたのも、前向きに関わってくださった沢山の人たちのおかげです。

 

The Homesick Moon:ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

 

また来場した方の多くが、じっくりと時間をかけて空間やそこで生まれる会話を味わう姿から、この場所が持つ独特な力を改めて発見する時間にもなりました。

(お昼休憩を挟み会場に戻ってきてくださる方や2日連続でお越しいただいた方も!)

 

 

 

"The Homesick Moon"に込められた想い

バンコク育ちのシティガール、juli baker and summer。高層ビルが立ち並び、マーケットや人の行き来が活発なバンコクでは、光が24時間輝き続けています。ネオンサイン、街灯、途切れることのない車のライト。

光を灯すのがあまりに当たり前になったこの街で、その存在を意識することもありません。

 

一方で、juliの母親はタイ北部の村育ち。この貧しい村では、電気は貴重で、夜になっても数時間しか使えません。だから暗闇はどこか恐ろしく、電気の代わりに灯す小さなランタンが頼りでした。

 

でも、現在のjuliは光を灯せる。ランプが放つ光のそばに座ると、恐怖ではなく安らぎを感じます。そして、その温かな感覚は、"故郷 (Home)" を思い起こさせるのです。

 

母と娘にとっての光。そのコントラストが、今回の展示のインスピレーション。

 

光がもつ安心感や、それから思い起こす故郷の姿。過去と現在、そして地方と都市をつなげる想いを込めて、”The Homesick Moon"と名付けられた本展。築約50年の「林崎松江海岸の家」の空間に合わせて、月のように優しい光を放つランタンを中心とした作品が制作されました。

The Homesick Moon:一色暁生建築設計事務所ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

 

 

林崎松江海岸の家、ここでしかできないこと

大小さまざまなイベントが数多く開催されていたゴールデンウィークに、神戸市内から電車で40~50分ほどの林崎松江海岸までお越しくださったたくさんの方々。

もちろんご近所の方もいましたが、「この展示をみたくて」と日本周遊中に最終日の予定として組み込んでくださった海外からの旅行者や、関東などから電車で数時間もかけて到着した方など、遠方からはるばる足を運んでくださった方が何人もいたのも印象的でした。

 

The Homesick Moon:ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

建築やアートに興味がある人の他にも、「この場所に流れるゆるやかな時間を味わいたい」という人も多かったように思います。木造2階建て、延べ床面積73㎡(なので、各階の広さはその半分くらい)のこの家は、ぐるっと歩けばあっという間に1周できるでしょう。ですが、来てくださった多くの方が触れていたのは「空間に流れる時間」や「世界観」。

 

開かれた大きな窓から見える海と穏やかな水平線。椅子に腰掛けながら、吊るされた大小のランタンやこの日のために描かれた作品を眺める。

 

景色と建築、アートが調和したこの空間で、来てすぐ帰る…という人は少なく

ほとんどの来場者がいつの間にか数時間滞在し、なかには何度も会場に戻ってきてくださったり、半日ほど過ごしていく人もいたほどです。

 

「居心地が良い」とはこのことなんだな、と言葉にしなくても伝わるものがあり、会場の様子を見ていて嬉しかったです。


 

 

本当の意味での地域活性化とは

オーバーツーリズムに足りないもの。それは、地域住民や文化、景観へのリスペクトではないかと私は思います。見ているようで見ていない、SNSに投稿するためだけの地域訪問や目先の話題づくりにどこか違和感を感じます。

 

ですが、建築やアートを看板に掲げると「文化」や「景観」に価値を感じ、それを支える地域住民をリスペクトする人が集まる。その景色を見るためなら、県境や国境を超えるのも、電車で何時間もかかる道のりもあまり気にならない。

 

便利さや効率だけでは得られない、「何か」を求めて人が集まるのではないか。

少なくとも、"The Homesick Moon"が開催された3日間、会場に訪れた方々の姿を見て私はそう思いました。

 

The Homesick Moon:一色暁生設計事務所 × ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

建築やアート、そして地域活性化をテーマにトークイベントも行った

 

特に海外がルーツの来場者は建築やアートだけでなく、ものづくりや文化全般に興味を持つ人も多く、書籍を片手に、根底にある日本の精神性を学んでいる人もいたのが印象的でした。

 

「この場所」を本当に大切に想ってくれる訪問者を迎え、建築やアート、地域と海外…と境界線を超えることで生まれる新しい景色。それが訪れた人の心に心地よい余韻を残し、地域に新たな光 ー 「夢や希望」を少しずつ生み出していくのではないかと感じるのです。

 

 

SPECIAL THANKS

会期中は、似顔絵ワークショップやトークイベントが日替わりで開催されました。

The Homesick Moon:一色暁生設計事務所 × ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

今回の開催にあたり、たくさんの方にご協力いただきました。

昨年9月のOPEN HOUSE003に訪れたのがきっかけで、その後、浮かんだコラボレーションのアイディアを受け入れてくださった一色暁生建築設計事務所のおふたり。

 

都内や千葉などでの展示経験はあるものの、さらにローカルな地域での展示制作は初めてだったジュリ。お店や宿泊施設が関東よりも少なく、それぞれの所在地が遠かったり…という環境での制作も初めてでした。ジュリが思っていた「日本の当たり前」が「東京や関東の当たり前」であることも多かったのですが、地域のスタンダードにジュリなりに柔軟に対応してくれました。(ジュリの柔軟さにsiestaは何度助けられたことか!)

 

サポート大賞を贈りたいのは、沖縄在住のsiesta読者 すみれさん。まだ展示の全貌が定まっていない頃の「ボランティアスタッフどうですか?」という呼びかけに、5分で即決。さくっと飛行機に乗って、兵庫県まで駆けつけてくれました。南国の太陽のように明るいすみれさんに、癒された来場者も多いのでは。

 

The Homesick Moon:ジュリ・ベイカー・アンド・サマー juli baker and summer

 

他にもフライヤーを置いてくださった各地のショップや、国内外のメディアの皆さま。宿泊施設が近隣に多くないなか、会期にあわせて宿泊を提供してくださったぱらさんなど…

 

3日間のために境界線を超えて集まった多様な人たち。それは来場者だけでなく、運営側も。

数えきれない多くの方々の支えで、夢のような時間が実現しました。

 

こうして生まれた "The Homesick Moon" は、訪れた人の心にどんな余韻を、そして地域にどんな足跡を残したのでしょうか。

 

Text by Natsuko

 

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