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そして日本へ。戻ってきたのは、なぜ?

ー 最初に富士吉田を訪れたきっかけについて聞かせてください。2022年でしたよね?
私がまだ知らない場所ーThe East(東の世界)に惹かれていました。ロンドンとも、ナイジェリアともまったく違う場所。せっかくなら、旅の時間が価値のあるものになるようなことをしたかった。
それで「アーティスト・イン・レジデンスをやってみようかな」と思いました。Googleでたくさん調べて、SARUYA が運営するレジデンスを見つけたんです。でも正直、最初は「これ、本当なの?」って思いました。
富士山の近くで、あまりにも完璧で。夢みたいで。
あまりに素晴らしいので「もしかして詐欺かも?」と思ったのですが、とにかく応募しました。
ですが、そのあとコロナが来て。結局3年間待って、ようやく2022年に来ることができました。
富士吉田での時間は本当に楽しくて……。アーティスト・イン・レジデンスは私の制作にすごくいい影響を与えてくれました。広々としたスタジオがあり、私の表現を後押ししてくれて、色々と新しい試みもできた。
だから、本当に楽しかったです。
期間を終えてロンドンに帰る時、空港で涙、飛行機が離陸する時も泣いている自分に気づいて。それで「ああ、また戻ってこなきゃ」って思いました。
— そして半年前に、富士吉田市に戻ってきましたね。もう一度、この街で暮らそうと思った理由は?
SARUYAでの6週間は、まるでハネムーンみたいな感じ。すべてが完璧で、心地よくて。でも、だからもっと長く滞在して、日本のなかでいろんな感情を感じてみたかったんです。
日本の文化に惹かれていたし、日常のなかに「自然」や「意図」のようなものが、あらゆるところに存在している気がして。
特に惹かれたのは自然との関わりや、侘び寂び、生きがいといった考え方。ここで改めて暮らしてみて、西洋で聞くこれらの概念と、日本の暮らしに浸透しているものとは、まったく違うと感じています。繊細で壊れやすいものや、壊れてしまったものを愛でること、そしてものを大切に扱う日本の精神にも惹かれます。

日本での滞在を通して、自分自身や自分の制作スタイルをもっと深めていきたい。直感や自分らしさを、より強くしていきたいと思っています。
できるだけたくさんのアートに触れて、自然の中で過ごすこと。自然に触れると地に足がつく感覚がするんです。自然素材を使った染め物について学んで、奄美大島のような場所にも旅できたらいいな、と。
そして、私が開催するワークショップなど、さまざまなかたちのクリエイティブで人とつながっていきたいです。

SNSとの距離感、関係性のONとOFF
— 時々Instagram の「お休み」をしたり、SNSではなくニュースレターでゆっくり近況報告をしたりと、SNSと意識的に距離をとっているように見えます。ただ、日本という、ロンドンからもナイジェリアからも離れた土地では、SNSが友人や家族との大切なコミュニケーション手段だったりして。
SNSとの距離感について、どう考えていますか?
今も試行錯誤していて、正直、難しいと感じることもあります。今は、より多くの人に届けたり、自分の作品を見せたりする手段が、どうしてもSNSになっているから。だからこそ、距離の取り方のバランスを意識しています。ちゃんとSNSから離れる時間を持つこと。
SNSでは、他の人と自分を比べてしまうのも本当に簡単だし、「作りたいから作る」のではなく、「シェアするために作る」流れに入り込んでしまうことも、すごく起こりやすい。
だから少し休んで、「私はなぜ、これを作っているんだろう?」と立ち返る時間が必要だと思います。
でも同時に、SNSはやっぱり大切なツールでもあります。
世界中の人とつながれるし、連絡を取り続けることもできる。オンラインを通じて、自分では思いつかなかった視点や考えに出会えることもあります。
最近、投稿の仕方をもっと意識的にしようと思って始めたのが、メーリングリストです。
毎月ニュースレターを書いて、登録してくれた人たちに送っています。
これも、コミュニティとつながりの感覚を保てる、すごくいい方法だと感じています。
それとは別にオフラインでは、今暮らしている富士吉田で、コミュニティの距離がとても近いところが好きです。みんななんとなく顔見知りで、すべてが近くにあるから、自然と人と親しくなれるんです。誰かを家に招いたり、逆に招かれたり、一緒に旅に出かけたり。なので、私も身近な人たちにとっての「感じのいい存在」でいようとしています。

つながりを持つことは、本当に大切。オンラインでもつながりは生まれるけれど、現実の関係性と比べると、どこか薄く感じてしまうこともある。
だから私の願いは、オンラインで生まれたつながりを、オフラインにも持ち込めること。
画面の中だけじゃなくて、その外側にも存在させることです。スクリーンの外でも、ちゃんと続いていく関係。
やさしいつながり “tender connections”
— 創作活動の軸として掲げている "tender connections(やさしいつながり)”というテーマについて教えてください。

“tender connections”という言葉は、自分の中にある “やわらかさ” を引き出してくれるもの。”tender(やわらかい、やさしい)” という言葉は、 私が作品を通じてこれから向かっていきたい方向や、深く共鳴している感覚を表す言葉として自然と思い浮かびました。
特に、ロンドンのような都市で育つと、どうしても人は硬くなりがちだと思うんです。すべてが「行け、行け、もっと」という感じで、強さや硬さが溢れている。
だから私は、意識的に “やわらかさ” を保ちたいと思っています。
それは、私が使う素材にも表れていて。柔らかい素材を使いながら、あえて硬い素材と組み合わせることは、私にとってとても大切なこと。そうすることで、その場の空気が少し居心地のいいものになる。人が「ここにいていい」と感じられる環境をつくれると思うんです。

たとえばワークショップでは、難しすぎて何も作りたくなくなってしまうような場にはしたくない。でも、少しだけチャレンジがあってほしい。だから、お茶を出したり、音楽を流したり、そうした “やわらかさ” を用意することで、創造性が育つ余白をつくりたい。そんなふうに考えています。

これからのこと

— これからやりたいことは?
それはいい質問ですね……。
日本に来ること自体が、やりたいことのひとつでした。
だから今は、もう少し富士吉田に滞在しながら、自然染料を使って色々と試しながら、しっかりとした作品群をつくりたいと思っています。また、このスタイルを少しずつスケールアップして、もっと大きな作品にも挑戦していきたい。自分自身を信じて、より大きな作品をつくれるように。
また、何年間かは改めて学びの時間を取りたいとも考えています。
テキスタイルのMA(修士課程)を学んで、さらに数年後には助産師の道に進むかもしれません。
というのも、「ケア」というものに、私はとても関心があるから。
若い頃、少しのあいだ高齢者介護の仕事をしていたことがあって。
そこから今度は真逆の世界 ― とても高齢な人をケアすることと、新しく生まれてくる赤ちゃんをケアすること。その両極を行き来しながら、「ケアとは何か」を理解したいと思っています。
「ケア」について、人によってさまざまなイメージがあると思う。
でも、「自分中心ではいられないことをする」という経験は、ケアを理解するうえでとても大切だと感じています。
誰かを、あるいは何かを、ケアするとはどういうことなのか。
大切にするとは、どういうことなのか。
私は、細かく決めたステップ通りの計画は持っていません。
でも、実験的な試行錯誤を通して成長していきたいと思っています。

ナイジェリアとロンドンという、まったく異なるリズムをもつふたつの場所を行き来し、さらに異なる価値観の日本へ。Kimberleyは、常に相反する世界に興味を持ち、そこから探求を始めているように見える。
そこにあるのは、やさしさやつながり、そして自分を中心に置かないケアという彼女らしい軸。
私たちが普段簡単には触れることのできない世界の話をしてくれて、どうもありがとう。
インタビュー当日、FUJI TEXILE WEEK会場で開催されていた彼女のかぎ針編みワークショップに私も参加した。距離や国籍を超えて異なる場所から集まった人々が、軽い会話を交わしながら並んで手を動かし、今感じることをかぎ針編みに落とし込んでいく。
そこには “tender connections” の言葉の通り、やさしい空気感とやわらかいつながりが生まれていた。
そしてKimberleyは、ここ富士吉田から未来に向けてどんなつながりを紡いでいくのだろう。
Kimberley Cookey-Gam(キンバリー・クッキー=ガム)
Instagram: @crochetcookey
メーリングリスト
Interviewed by Natsuko
Selected images courtesy of Kimberley
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