dee's magazine 編集長の千葉美穂さんに出会ったのは2年前。
なんとなく暇していた春のある日、近所のお店の一角でdee's magazineの製本とスタンプ押しのお手伝いを募っているのを知ったのがきっかけ。
「スタンプ押しって??」と一抹の疑問が湧いたものの、実は切ったり貼ったりみたいな単純な手作業も好きな私。心地よい春風に後押しされるように、迷わずチャリを漕いでお店に向かった。
職業:エディトリアル・グラフィックデザイナー & dee's magazine 編集長
(最近、出版レーベル dee's magazine BOOKSも始めた)
dee's magazineは2020年末に個人で創刊したフリーペーパー。
創刊号は100部から始まった。じわじわと輪が広がり、4年後の現在、最新のvol.9発行部数は当初の5倍の500部に。全国の書店など約40店舗で取扱われている。年2回発行。Instagram @deesmagazine
住まい: 東京都大田区 → 湘南
プライベートでは、高校生と小学生の母。
エディトリアル・グラフィックデザイナーとして、雑誌誌面のデザインとやさしい手描きのイラストが得意な千葉美穂さん。プライベートでは、育ち盛りの2児の母でもある。
その傍ら、dee's magazineというマガジン(フリーペーパー)を立ち上げ、運営している。
紙とWeb。表現に使う主な媒体は違えど「自由に色々なことを表現したい」というコアは、同じくインディペンデントなマガジンのsiestaと共通するものがある。
…というわけで、9月末に発行される最新号 dee's magazine Vol.9に私もチラリと参加させてもらったので、発起人であり編集長の千葉美穂さんにお話をお伺いしました☺️💬
千葉さんとの出会いのきっかけになったdee's magazine vol.5
「当時、仕事がほとんどなくて、暇だったから始めたんですよ」とdee's magazineを立ち上げたきっかけを教えてくれた千葉さん。
dee's magazineが始まった2020年のビッグニュースといえばコロナ禍。コロナ禍やステイホームがきっかけかと思いきや、そうではなく、「暇」が1番の理由だったらしい。
暇は偉大だ。
ま、私も暇してて千葉さんに出会ったし😪✌️
今では、全国各地の書店やショップで配布されているdee's magazine。そのラインナップをみるとカルチャーやデザインの分野が得意な書店や、軸を持って運営している個人経営のお店が多くて、千葉さんがデザインや出版に「ちゃんと向き合ってきた人」だから集まったお店なのだなとも思う。
昨年2月には広島の蔦屋書店でトークイベントに登壇した。そして今年はdee's magazine BOOKSとして仲間と一緒に本の出版(リトルプレス)も始めた。応援してくれるお店や読者の方たちと交流し、次のアイディアを練り、やりがいのある日々を過ごしている千葉さん。
これらはすべて「暇」な2020年から始まった…!
やっぱり暇な時間は素晴らしい。アイディアを生み、新しい扉を開いてくれる。
「編集もデザインも構成も写真も、すべてのプロセスを自分でやってみたい。それで dee's magazineを立ち上げたんです。」
これまで発刊されたdee's magazineを並べているところ。毎号、全然違うスタイル。
さて、そんなdee's magazineの活動の場が着々と広がっているのには理由があって。それは「他にはない、dee's magazineらしさ」があるということ。
siestaが思う、dee's magazineらしさ
- 一般的なクライアントワークでは実現できない、実験的な紙媒体
- 毎回、体裁や構成が異なる
- 凝った作りなのに、フリーペーパー
- 読者が出資する応援枠がある
- 読者と誌面を作る人の境界線が曖昧。製本は手伝ってもらって、みんなで作る
- 大手雑誌が取り上げないような人たちにも注目する
dee's magazineはいわゆる一般的な「雑誌」とは違う。マガジンの一般常識にはまろうとしないのはsiestaも同じだけど、dee's magazineが特に重きを置くのは紙への挑戦。
最後の仕上げ、製本はみんなでやる。いつの間にか「製本部隊」と名前がついた。
美術大学を卒業し、エディトリアルデザイナーでもある千葉さんが誌面や印刷にこだわるのも、「らしさ」。
手に取る楽しさがある紙媒体だけど、その反面、印刷にはお金がかかる…。体裁を定めないdee's magazineは、毎回の印刷が実験の繰り返し。納得する誌面になるまでに、何度も試行錯誤を繰り返していることは明らかで、コストパフォーマンスや効率とは真逆をいく運命とともにある。
それでも無料配布のフリーペーパーにこだわる理由とは?
「少しでもたくさんの人に見てもらいたいから、手に取りやすいフリーマガジンにしているんです。せっかく作っても、少しの人にしか見てもらえないのは嫌じゃないですか。」と話す千葉さん。
初めから目指すビジョンは大きいのだ。
たくさんの人に作ったものを見てもらいたい。その強い想いのルーツは妊娠・出産で諦めなければいけなかった過去のキャリアに遡る。
20代にして、出版社のデザイン部でチームリーダーを務めていた千葉さん。週6勤務や深夜3時まで続く残業はザラだったし、体力的にもキツかったけど、大好きなデザインのために身を粉にして働いた。
デザイナーとしてのキャリアもこれからというところで、現在のパートナーと出会い、妊娠。その時に会社から告げられたのは「これまで通りのスケジュールで働けないなら、もう来なくていいですよ」という、あっさりした一言だったという。
今まで尽くしてきたものは・・・?
当時は「リモートワーク」も「ライフワークバランス」という言葉もまだ一般的でなかった時代。新しく授かった命を守るため、「健康的なスケジュールで生活をしながら、家族と仕事を両立する」という選択肢は日本の出版業界にはなかった。
会社と時短出勤の相談をする余地もなかった、と語る千葉さんのキャリアにおける悔しさは想像に難くない。
だからいつまでたっても日本は男女平等格差が世界で118位、ビリから数えた方が早いんだよな〜。キャリアか家庭か選ばなくちゃいけない、こーゆーとこよ。(siestaのつぶやき)
結婚・出産を経て、湘南の地に根を下ろした千葉さん一家。かつてデザインに向けていた情熱を育児に向けるようにして気を紛らわした。
同じくエディトリアルデザイナーである友人や知人の仕事をたまに手伝ったりはしていたけれど、千葉さんがかつて諦めざるを得なかったキャリアへの未練は消えることはなかった。どこまでいっても、デザインが好きなのだ。
そして暇な時😪を経て、2020年に生まれた dee's magazine!
仕事ではできないようなことをカタチにしたい。デザインが本業の千葉さんには次々と新しいアイディアが湧いてくる。クリエイティブなアイディアに困ることはないけれど、配布や流通となると話は別。
ひとりひとりへの手配りから始まって、4年経った今では全国約40ヶ所の設置店、500部の発行になるまでに成長できた。その大きな理由のひとつは「みんなの応援」でもある。
ひとりではできないことも、みんなの力を合わせればカタチになる。それを体現しているのがdee's magazineのあり方でもある。
応援枠を正面に大きく掲げているのが「らしさ」なdee's magazine。応援枠とは、dee's magazineを応援したい誰かが出資するシステム。純粋に出資して終わりの場合もあるし、もう少し奮発して誌面広告や特集記事に参加できる枠もある。
フリーペーパーとして無料で配布して、有料で応援を募るその理由は?
「 創刊当初は、希望者に郵送などで直接dee's magazineを送っていたんです。でも発行に費用もかかっているし、無料で差し上げるだけではちょっと損だな…と思うようになって(笑)。それで物々交換でマガジンを差し上げることにしたんです。
物々交換するものは、読後の感想文や手紙でもいいし、読者の方が得意な分野を活かした制作物でもいい。
創刊号から読んでくださっている読者のひとりに、ワッペン作りが得意な方がいて。感想の代わりに、手刺繍のワッペンを送ってくださったんです。こんなことができるのか、とすごく感動しました。」
自分の気持ちに正直に、読者の方々を巻き込んでいった結果の物々交換。それが、現在の応援枠のあり方につながっている。
また、自分から積極的に声をかけていくのも千葉さんのスタイル。
現在のdee's magazineの最初にして最大のサポーターでもあり、今年立ち上げた出版レーベルの共同運営者でもある小梶嗣さんとの出会いは千葉さんからのDMだった。
dee's magazine発刊の時、すでにプランナー・編集者として出版の世界で濃いファンを持っていた小梶さん。「この人に応援して欲しい」と思った千葉さんは、当時まだ会ったことのない小梶さんにInstagramでDMを送った。できたばかりのdee's magazineをぜひ読んで欲しいと。
小梶さんがすでに20年ほど続けていた「ぼくの食のベスト10」という記録集がdee's magazine のインスピレーションでもあったから、その想いも一緒に伝えた。
千葉さんの想いは見事に届き、小梶さんのInstagramでdee's magazineが拡散され、ここから徐々に読者と応援の輪が広がっていくことになる。
Instagramで見つけた面白そうな人に「話をききたい」と直接声をかける。その人と一緒に記事や連載を作る。そのうち誰かから「面白い人がいるよ」と連絡が届いたり、製本のお手伝い募集を見て駆けつけてくれる人もできた。
千葉さんは「応援される人」だ。と同時に、応援枠という仕組みを作り「応援してください」と自分からはっきり宣言する。こうして、周りを巻き込みいつの間にか応援させてしまう何かがあるように思う。
こうして千葉さんのやりたいことはカタチになり、どんどん輪も広がっている。
「小さな声でも何かを届けようとしている人、その人にしかできないことをやっている人を見つけて、dee's magazineを通してみんなと共有したいですね」と話す千葉さん。
千葉さんが作る世界は、応援した先に見えそうな未来や、実験と挑戦を続けることから生まれるワクワク感、そして「参加したらなんか面白そう」という純粋な遊び心とともにある。
みんなの応援を合わせて、いつの間にか辿り着く新しい景色。dee's magazineを見ていると、ひとりで頑張るのだけが答えじゃないよ、と教えてくれているような気がします。
dee's magazineの今後の展開も楽しみに、そして応援しています!
siestaも、dee's magazineの最新号 Vol.9 の応援枠に参加しています。
特集:チバミホとなかまの「超個人的な話」に寄稿しているので、読んでみてね☺️🗞️✨
dee's magazine 取扱い店などの最新情報は → @deesmagazine
Interview with 千葉美穂さん / ophelia design studio
Photos by @deesmagazine
Special thanks 🤝✨ @kissakolabandpantry