Read in English here
今回はsiesta magazineで初めての、海外ライターとのコラボレーション記事です。
きっかけは、Instagramを通じて、スペイン出身のエレナがポートフォリオと一緒に「何かやりませんか?」と連絡をくれたこと。"siesta"とスペイン語の名前を名乗るsiesta magazineに、本場スペイン出身の彼女から連絡がきたのはとても嬉しく、何か特別な企画ができないかと考えました☺️🇪🇸
NYのUP MagazineやSabukaru、Yokogaoなどの英語メディアで、すでにライターとしてもいくつかの記事を執筆していた彼女に、今回は英語版の記事本文の執筆をお願いすることに。
以前、地方創生と文化をテーマに掲げた "The Homesick Moon" を企画してから、siestaは「地域コミュニティのあり方が、日本文化の独自性と深く関係しているのではないか」と考えています。そこで、ストリートアートを長年研究しているエレナに、彼女から見た日本の、そしてストリートを起点とするローカル・コミュニティについて聞いてみることにしました。
本記事は、siestaが考えた記事企画に、エレナが本文を書き、編集や日本語訳をsiestaが仕上げるかたちで2人で一緒に記事を作りました🤝✨
寄稿:Elena Calderón Aláez(エレナ)
出身:スペイン、マドリード
現在、東京在住。ストリートアートとグラフィティの研究と仕事をしてます。
From Home to the Wall - ホームを出て、世界の壁をめぐる
Q: エレナについて教えて。これまでに住んだ場所は?
スペインの首都、マドリード出身のグラフィティ&ストリートアートの研究者・キュレーターです。2020年に日本に来て、現在、在住5年目。
私の人生を振り返ると、「移動」「好奇心」「発見」の3つが軸でした。私は双子座で、星座が示す通りに変化が好き。ある人は、私のことを "フラヌール( flâneur: 街を気ままに歩きながら、文化や人々を観察し、そこから発見やインスピレーションを得る人)" と呼ぶかも。
街を歩き、人々を観察し、そこに隠され重なり合った何かを見つけること ー これが私のパッション。今は研究者・キュレーターとして活動していますが、私の関心は、アートを見る・見せるだけでなく、人々とストーリー、そしてコミュニティをつなげることにもあります。
Q: 日本にたどり着くまでに、これまでに住んだ場所は?
スペインで生まれ育ち、その後、さまざまな国に住みました。日本に落ち着く前は、ギリシャ、スウェーデン、アイルランド、イギリス、スロベニア、ドイツ、アイスランド…と、ほぼ1年ごとに国を移動する生活。ヨーロッパやアジア各地を旅しながら、その土地ごとのグラフィティとストリートアートをいつも探してました。
スペイン、ビルバオのストリートアート。カラフルでシンプルな構図、主張が強いものが多い。
好奇心に任せて移動の多いライフスタイル、と同時に、ストリートアートのキュレーターと大学などの教育機関を通じた研究者としてのキャリアも進めてました。例えば、ニューヨークのUP Magazineや、英語メディアのSabukaru、Yokogaoでライターとしていくつかの記事も執筆しています。
そして、さまざまな国を経て、2020年にワーキングホリデーとして横浜に来日しました。
Q: 日本に住んでどのくらい?
2020年からずっと。この数年で、東京は私にとって「ホーム」になり、大事な「研究のフィールド」にもなりました。現在は東京芸術大学に在籍し、博士号(PhD)の取得に向けて、日本のグラフィティについての研究も続けています。
Q: エレナにとって、ストリートアートとグラフィティとは?
ストリートアート、特にグラフィティは、社会で起きていることを理解する手段だと思います。今、誰がどんな意見を持ち、表現としてそれを残し、見えない場所から声をあげるかといったこと。
また、グラフィティは、土地によって表現の異なる記号のようなもの。日本のアーティストは、漢字、カタカナ、ひらがな、書道をアメリカのスタイルと融合させるところが好き。神社などの、神話的または宗教的なモチーフが取り入れられていることも。独自の「伝統」「宗教」「文化」が現代的な新しい解釈と融合していて、興味が尽きません。
渋谷にて
日本の折り紙が描かれたもの。原宿
Q: エレナのルーツやアイデンティティについて教えて。ホームタウン、家族、友人、地元のコミュニティはどんな感じ?
スペイン・マドリードでは、私の原点で、情熱のルーツでもある「アートと旅」を周りの人からいつも応援される環境で育ちました。
私の地元コミュニティは、オープンで社交的、表現豊かでクリエイティブ。こうした友人たちや家族に囲まれたおかげで、私は好奇心旺盛で、自己表現を恐れず、人とつながるのが好きな性格になったのだと思います。
Graffiti Journey - グラフィティ・ジャーニー
Q: どうやってグラフィティに出会ったの?
出会いはヨーロッパ、特に印象に残っているのはギリシャのアテネ。クリエイティブで反抗的、描く環境への制限があるのに詩的、そして何よりもグラフィティが持つ「儚さ」ー これらの相反する要素に魅了されました。
ギリシャにて
旅先で目にしたグラフィティの個人的な興味から始まり、今は専門分野として、歴史や描かれた背景、現場での活動について幅広く研究を続けてます。こうした活動を続けるうちに、ポルトガル、スペイン、スロベニアで記事を執筆したり、カンファレンスでも講演するように。
カンファレンスでも講演するよ
Q: なぜ地元を出て、色々な場所を探求し始めたの?
グラフィティは「旅そのもの」だと思うから。同じメッセージでも、土地が変われば、表現も変わる。そうした違いを理解したいと思ったんです。だから地元にとどまるのではなく、世界で起きていることを自分の目で見たいと思いました。
ブラジルのpixadores、ドイツの1upやBerlin Kidz、日本の書道にインスパイアされたタグが今の私のお気に入り。
*タグ:アーティストの名前やサインを描いたもの。グラフィティの最小単位。
スウェーデン、ストックホルムにて
Q: 他にも色々な国があるなかで、なぜ日本へ?エレナはもう5年も日本に住んでいるけど、そんなにも長い期間、日本のシーンから興味が尽きない理由は?
東京のグラフィティシーンは、かなりアンダーグラウンドで「まるで透明人間のように、作者が見えない」と聞いたんです。海外諸国と比べて、日本は制約が多いのも関係していると思いますが、それに惹かれました。研究者として、こうした環境でアーティストはどのように活動しているのか知りたいと思いました。
文化的には、日本独自の美意識(ミニマリズム、書道、漫画、ポップカルチャー)も魅力的で、それらがグラフィティとどう融合するのかも気になっていたんです。
Q: 日本ではどうやってグラフィティを探してる?活動は都市部だけ?
他の地域にも興味はあるけれど、今は東京が中心。東京は、例えていうならニューヨークのように、ストリート文化の発信地。東京が日本全体を代表するわけではないけれど、サブカルチャーの中心地であり、密度も濃くてカオスなこの場所が気に入っています。
この場所で起きていることをもっと多くの人に知ってほしくて、渋谷・原宿エリアで、ストリートアート&グラフィティのウォーキングツアーの企画運営もしてます。大きな壁画だけでなく、見落としてしまいそうなタグやグラフィティの重なり合いについても話したり。その他にも、いわゆるセンターだけでなく、高円寺・中野エリアでのより地域密着型の新しいウォーキングツアーも準備中。
Q: 地域によって違いはあると思う?
はい。例えば大阪では、表現が力強く、より豊かで、作者の名前を描くタグ文化が強いと思います。大阪では大規模な壁画の許可も得やすいので、YODOKABEのような地域を巻き込んだ大型プロジェクトもあります。それに対して東京では、人口密度が高く、さまざまな規制も多いため、アンダーグラウンド感がより強くなると感じます。
日本では地域ごとに、独自のスタイルがありますね。
群馬で見つけたストリートアート
Q: コミュニティについて。日本の「ローカルコミュニティ」はどんな印象?
日本では、特にグラフィティの現場では、コミュニティはプライベートかつ閉鎖的で、外部からの近づきづらい印象です。また、多くのアーティストは秘密主義。
例えば、私が話しかけようとすると、なかには否定的な態度を示すアーティストもいるんです。スペインのオープンでフランクなコミュニティと比べると、日本のコミュニティでの距離感に少し難しさを感じることもあります。一方で、自分たちの在り方やプライバシーを尊重する、日本ならではの距離感をを尊重することも学びました。
私にとって日本は、隠されたアンダーグラウンド的な印象をうけます。街のどこを見れば良いのかあらかじめ知っていなければ、グラフィティやアーティストを見つけるのは難しい。そしてこれが、私にとっては「宝探し」のようで、やりがいを感じます。
Q: コミュニティとストリートについて。日本と海外の違いは?
ヨーロッパでは、ストリートコミュニティはオープンで話しかけやすく、アーティストへのアプローチもしやすい。だから、コミュニティの外から来た人とのコラボレーションの機会も珍しくありません。
一方で、日本のストリートコミュニティは小さく分断されていて、とてもプライベート。クルーは秘密主義で、描くグラフィティの種類によっても、人々の間に大きな溝を感じます。
私は、描かれるグラフィティの種類に関わらず、あらゆる作者たちの視点を公平に研究したいと思うんです。どれも文化の大事な一部だと思うし、それぞれのテクニック、描かれた場所、メッセージに興味があるから。日本で活動している外国人キュレーターとして、時々誤解されることもありますが、これが私が大切にしている点です。
Reflections & Future - そして、これから
Q: 今後について。エレナの夢や目標はある?
私が続けるストリートアートとグラフィティ研究の軸には、シンプルな問いがあります。
「壁に誰が何を残し、何を消すのか?」
かつてそこにあったものの奇妙な痕跡を残すことも、グレーの塗料で上書きしてしまうのも、ひとつのアートだと思うから。
私の活動の軸であるこの問いを、今後も多角的な視点から探求し続け、さらに広げていきたいと思っています。学問としては、現在在籍している東京芸術大学での日本のグラフィティに関する博士号取得を。フィールドワークとして、私が企画・運営する東京ストリートアート&グラフィティウォーキングツアーの範囲をさらに広げる。キュレーションでは、すでに今も協業しているTOTEMOなどのカルチャープラットフォームとの関わりを深めて、地域コミュニティや伝統とグラフィティやストリートアートをもっとつなげていきたい。
TOMEMOを通じて開催したKAZZROCKとTABOO1によるライブペイント
例えばTOTEMOでは、アーティストの認知度向上や日本人アーティストの海外展開をサポートしたり。原宿での作品制作や、MUEBON、TABOO1、KAZZROCK、LEDANIA、NYCHOS、JEREMY YAMAMURAとのコラボレーションも行いました。
もっと先に目を向けると、将来的には琵琶湖ビエンナーレ、越後妻有アートトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭など、日本のアートフェスティバルとコラボしてみたいと思っています。東京などの都市部だけでなく、地方にもストリートアートを広められたらと。もっと地域コミュニティや伝統と深いつながりができないだろうかと考えるのです。
同時に、UP Magazineなどの国際的なメディアへの寄稿も続け、カンファレンスでの講演活動も継続・拡大していきたいです。
つまり私が目標とするのは、ストリートアートを通じて、人々、物語、コミュニティとつなげること。私の活動を通じて、ストリートアートがもっと自由に羽ばたき、地域の垣根を越えて、伝統や地域の声とも共鳴できたらと思うのです。
エレナやストリートアートについて、もっと知りたい人はこちら
Tokyo Street Art & Graffiti Walking Tour
テキスト & 写真:エレナ・カルデロン・アラエス
編集 & 日本語翻訳:夏子
1件のコメント
最高🔥🔥🔥