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欠かせないもの
ニック:
これは僕のお気に入りの小さな友だち。カセットレコーダーなんだけど、これをライブ会場に持ち込んで音源を録音しています。温かくて揺れるような、ウォークマンのようなアナログ感が気に入っていて。これで録音したカセットテープを、感謝の気持ちを込めて時々誰かにあげたりしてるよ。
ー カセットテープ!改めて、新鮮。A.o.P.Fの曲やInstagramからも、アナログ感のあるLo-fiな雰囲気を感じたんですよね。

ニック:
ありがとう!それは、僕たちが今いる段階にも関係しているかも。今は楽曲の制作やライブパフォーマンスに集中していて、いわゆる高解像度の録音をする前の段階。だから今は、少し距離が近くてアナログな感じでいくのがいいんじゃないかと思ってて。
メンバー紹介
Nick Edwards(エドワーズ ニック):ボーカル
スコットランド・ハイランド出身。荒涼とした山々に囲まれた、北海道のような広大な自然の中で育つ。犬の散歩中に浮かんだメロディをきっかけに、独学でギターと歌を覚えた。
バンド名のルーツは彼の子ども時代に遡る。当時、ヨーロッパで大流行していた日本の格闘ゲーム「ストリートファイターII」「ベア・ナックル」「龍虎の拳」に兄と夢中になった彼。ゲームが終わっても、リビングや食卓で兄とレスリングのように遊び、親に注意されると「これはただの遊びの戦い(Playfighting)だよ」と答えていた。
その会話を思い出して生まれたのが「Art of Playfighting(じゃれ合いの作法)」=A.o.P.F。出したい感情を表現しながら、それを受け入れやすい形にするというバンドの原点になった。
音楽にのめり込む中で、ポップで明るいバンドには語るべきメッセージがないように感じ、どこか物足りなくなった。一方で重く陰のあるバンドは真面目で深刻すぎる。だからA.o.P.Fでは、その二つが交わるような音楽を作っている。
Leo Herron(ヘロン 怜生):ギター & ボーカル

神戸生まれ、アメリカ育ち。音楽好きな父の影響でレッド・ツェッペリンやビートルズなどのクラシック・ロックを聴いて育つ。ジミー・ペイジに憧れ、13歳でギターを始めた。
ニックと出会ったのは2014年か2015年頃の東京で、一緒に音楽活動を始めた。その後、ニックとも東京とも離れ、ロサンゼルスに渡り5年間音楽業界で働く。3年前に東京へ戻り、ある日偶然ニックと再会。その日からA.o.P.Fの活動を再開した。
Kani Crabb(クラブ カニ):ベース & ボーカル

アメリカ・サンノゼ出身。2023年のある日曜の深夜、渋谷のライブ会場でニックとレオに出会う。彼もソロ出演しており、偶然ニックと同じ苗字だったこともあって意気投合した。
カリフォルニアでも音楽活動をしていたが、生活リズムが安定し音楽の時間を確保できる日本での活動も気に入っている。
ニックとレオが作った曲に新たな低音のメロディを吹き込み、「もう一つの曲の流れ」を描くのが得意。低音域を軸に曲を進化させる役割を担っている。
アイディアを形にする時のこと
ー Instagramの雰囲気にも惹かれました。あの動画は誰が作っているんですか?
ニック:
担当しているのは僕。実は、長い間SNSから離れていて、2000年代のFacebookの記憶で止まってたんだよね。久しぶりにSNSに戻ってきたら、色々なことが変わってて「なんだこれは、キラキラしてるぞ」って(笑)。
だからInstagramは手探りの部分も大きいんだけど、結局、表現することが大事なんじゃないかと思ってる。ジョン・レノンの「僕は上手いギタリストではないけど、表現者(アーティスト)だ。もしチューバを渡されても、何か音を出して表現してみせる」という言葉が好きで。そんな彼にインスパイアされて、分からなくても表現してみようと。
ー 曲を作る時のことも聞きたくて。どうやって一緒に創作してますか?
ニック:
個人でも曲を書くけど、A.o.P.Fのバンドとしては、練習中に自然にアイディアが生まれることが多いんだ。僕とレオは、不思議な化学反応があって、一緒にアドリブ演奏するうちに自然と曲ができてしまう。それをこのレコーダーで録音してる。スタジオや多摩川の河原でやってることが多いかな。
それから、後で録音を聴き返して良い部分を抜き出し、歌詞や構造を組み立てる。テンポ、ダイナミクス、コーラスなどを重ねていく感じで。
ー 後で録音を聞き返して良い部分を抽出し、何かを組み立てるプロセスは、私のインタビュー記事づくりとも似てる。私は音源を持ち帰り、ひとりでのびのびとアイディアを再構築する「創作の自由」が好きだったりするんですけど。皆さんはお互いの自然な流れで曲が生まれるんですね。
レオ:
うん。僕らはかなり実験的で遊び心のあるバンドだと思う。
ニック:
ふとした時にアイディアがつながる瞬間もあるよ。多摩川の河原でジャムしていた時のこと。短いフレーズが僕から生まれて、レオがそれをアレンジして演奏し始めたんです。その新しいフレーズが水面に反射する光みたいに聞こえて。
そこにちょうど暴走族が通りがかって(笑)。その爆音を曲に取り入れたら面白いんじゃないかと思って、新しいアイディアが生まれた。こういう偶然に任せた「ハッピーアクシデント」もよくある。

カニ:
そういえば、ニックは意味のない言葉やメロディをなんとなく歌うことから始まって、後から具体的な歌詞を当てはめてない?
ニック:
言われてみれば、その通り!大事な気づきをありがとう(笑)。最初はフリースタイルで歌っていて、言葉は後から。メロディの形に合わせて言葉を探してる感じだね。
僕は医療コミュニケーションのライティングの仕事もしているので、構造から書く癖があるんです。だから歌詞も、シンプルなアイディアをサビに置いて、ヴァースで展開していく構造になってる。
演奏中に心地よいフレーズが浮かぶことがあって、そこから意味を遡って書いていく。まずサビがあって、そこからヴァースでストーリーを広げていく。
ー 音の形に言葉を当てはめていくというスタイル、とても新鮮!
意外な化学反応が起きるのは、バンドだから
ー アイディアが曲になるまで、どれくらいかかりますか?
ニック:
長い時は何年も。2015年に生まれたアイディアを、8〜9年越しにまとめたことも。ただ、時間をかけすぎたり、作り込みすぎると最初のアイディアを壊してしまうこともあるから、長くなりそうな時はメンバーが止めてくれて助かってるよ。
レオ:
僕らの曲は実験的でもあって、常に変化している感じがする。カニがボーカルを歌ったり、僕がギターのアイディアを出したり、歌詞を少し変えたり。固定されたものではなく、試しながら即興している感じ。
ニック:
あと、カニはベースで「もう一つの曲」を書いてくれるんです。急にクールなベースを弾き始めて、僕が歌うのを忘れて聴き入ってしまうこともある(笑)。
日本で音楽表現をすることについて
ー みなさんのルーツがある欧米と比べて、日本では違う表現の価値観があったりしますね。そんな中、なぜ日本で音楽をやろうと?
ニック:
僕はどこにいても音楽をやっていると思う。日常から自分を切り離したり、気分転換のために必要だから。
イギリス出身の僕からすると、ビートルズやクイーン、オアシスが日本でも愛されているのは興味深いけど、シンプルに嬉しい。母国よりも日本のほうが愛されてる感じがするんだよね。
あと、日本のライブシーンは素晴らしいとも思う。日本のミュージシャンはBlurのような影響を自分たちの音にしてる。僕はシティポップも好きだから、いずれそういうスタイルも試してみたいと思ってるよ。

カニ:
僕にとっては、日本の方が音楽にずっと集中できる。生活の心配が少ないから。アメリカでは政治とか治安とか、生活するうえで色々とヘビーなことが起こりすぎて…。それに比べて日本の暮らしは平和で安定してるから、創作の時間を確保しやすくて好きだな。
ー そういえば、アメリカでバンドのツアーマネージャーをしている知り合いがいますが、その生活は壮絶そのもの。1台のバンにメンバー全員で乗り込み、1日おきに州を移動しながらアメリカ大陸を横断してライブを続けたり。
輝きが強い分、反対方向に引っ張られる力もものすごく強い場所。そういう意味では、暮らしに安心や安定がある日本は、創作活動と相性がいいのかも。
レオ:
僕もロサンゼルスの音楽業界で5年間働いたけど、アメリカはすごくクレイジーで不安定だと思う。その分、上手く行った時の高揚感もすごいけど。大きなステージに立てるし、国際的だし。
あと、アメリカと日本では音楽の楽しみ方も違うと思う。10代の頃は騒がしいアメリカの観客が好きだったけど、最近は日本の楽しみ方の良さもわかってきた。今は音楽を作ることそのものに集中できる、日本がすごく気に入ってるよ。
AIと創造性の関係
ー 音楽の世界にもAIが入ってきていて、あらゆる場面で「人間が創造すること」の意味や価値がますます変わると思うんです。
レオ:
創造性で大切なのは最終的なアウトプットだけじゃなく、そこに至るまでのストーリーだと思うんだよね。長く音楽に向き合っていると、曲のちょっとしたこと、例えばつなぎの部分のこととかで、他の人の意見を聞きたくなる。
でもそのためにAIを使うのは、ちょっと違う気もしてて…。人間がやったほうがしっくりくるし、リアルな感じがする。やっぱり本物らしさが違うと思って。
ニック:
僕も同じ意見で、過程にあるストーリーは大事だと思う。例えば、ジョニー・キャッシュやエルヴィスの伝記映画があったとして、もし主人公がただ座ってAIと曲を書いていたら、物語なんて何もないし、それを見てもつまらないよね。
カニ:
もし次のヴァースやメロディをいつもAIに聞く癖がついたら、創作の課題を自分で解決する力を失ってしまうと思う。いわゆる、「創作の筋肉」を失うような…。もしかしたら僕が間違っているのかもしれないけどね。

ニック:
2001年の映画「ウェイキング・ライフ」に「今は、生きているのが最高に刺激的な時代だ。退屈している暇なんてない」という一節があるんだけど、こういう話の時に思い出すなぁ。
AIでもSNSでも、新しいものが出ると、世の中って最初はやりすぎとも思える方向まで振り子が振れがち。でも、いずれは揺り戻しが起きて、落ち着くべきところに落ち着く。こうした変化をネガティブにとらえることもできるけど、どのみち避けられないこと。何が起きようと、現実は進んでいく。だからある意味ではワクワクもするし、「この状況をどう乗りこなすか」という気もしてくる。
これから、と大切にしたいこと
ー 今後、やりたいことは?
カニ:
温めている曲があるので、そのうちアルバムを作りたい。僕自身も個人で音楽制作をしてるけど、バンドでの創作はまた違う楽しさがあるから。
レオ:
「遊び心」はこれからも大切にしていきたいテーマ。僕らには色々なアイディアがあるので、来月には全く違うことを試しているかもしれない。最終的にはアルバムを作りたいですが、制作の過程そのものも楽しみ。
ニック:
個人的な想いをいえば…、成功はだれしも追い求めることで、それが叶えば素敵だなとは思います。と同時に、バンドとして全員がハッピーでいられること、喧嘩よりも演奏の時間の方が多いことも大事だと思いますね。昔、成功している人の下で働いたことがありますが、人間関係があまり好きになれなかったから。
ささやかな夢かもしれないけど、このバンドがいつも「ハッピーな場所」であり続けてくれたら嬉しい。

最後に、A.o.P.Fがsiestaのために作ってくれた、昼寝サイズのミニ・プレイリストについて(記事の途中で紹介したあのプレイリスト)。オリジナル曲「Colour of Love」と、その制作のインスピレーションになった数曲がセレクトされています。
ふわっと夢を見る時間や、これからなにを作るかを考えたり、クリエイティブなアイディアのきっかけに、聴いてみて。
Instagram: @A.o.P.F
Leo @theleoherron Kani @crabbinz
Interviewed by Natsuko